古くからの新聞記者仲間4人が2020年末、福岡市中央区今泉に一般社団法人「福岡ペン倶楽部」を設立、会員制の非営利団体として2021年4月から活動を開始しました。
同倶楽部は毎月、連続講座を開講し、講演会、在九州海外公館の会見や交流会を行います。機関紙「Klass」を紙とウェブで発行し、講義や講演はオンラインでも発信します。
福岡ペン倶楽部設立に当たって真っ先に掲げる趣旨、目的は「地方の復権」です。戦後の経済高度成長が終わって半世紀、バブル経済が崩壊してからも30年が経ちました。この間、地方分権、道州制、地方創生など地方の発展政策はいくつも打ち出されました。しかし、どれ一つとして成果が上がったと胸を張れるものはありません。むしろ国土の均衡ある発展を阻害する東京一極集中に拍車がかかり、中央と地方の格差は拡大して国家の構造は不均衡さを増しています。
この歪んだ社会構造を新型コロナウィルスが襲いました。ウィルスと人類の戦いはこれからも繰り返され、その標的は人口密集地域であることを私たちは学びました。肥大化した東京は密集の頂点にあり、繰り返されるウィルス禍が国民生活、経済活動全体に悪影響をもたらすのは避けられません。これを防ぐため東京の都市機能を思い切って地方に分散する時代の到来です。デジタル技術の普及で在宅勤務が拡大し、地方移住の動きが始まっています。社会が中央から地方への政策転換を促しているのです。
しかし、「その受け皿が地方にあるのか」との疑義が消えません。確かに地方はこれまで国の補助金を自分の地域にいかに多く引き出せるかに精力を注ぎ、人材も知恵もカネも中央に頼り、支配され続けて来ました。
背景にあるのが明治から続く「中央集権思想」です。これを「地方分権思想」に転換し、中央と地方の関係を抜本的に組み替える時代です。それには、中央に対抗できる思想の核を地方に構築しなければなりません。
幸いなことに九州は思想的な遺産に恵まれています。大陸の技術、文化が最初に伝播し、日本の古代史はここから始まりました。大航海時代に伝わった鉄砲とキリスト教は、日本を封建国家から近世国家に転換させました。明治以降の文明開化と産業近代化を先取りした人材を輩出したのも九州でした。
そのシンボルである石炭産業の隆盛と没落、さらに負の世界遺産と言うべき長崎原爆、水俣病なども経験しました。こうした蓄積が九州独自の思想の系譜を形作っています。いまこそ、それを学び直して新たな「地方分権思想」を打ち出すことが、福岡ペン倶楽部設立の趣旨です。
倶楽部会員には新聞、テレビ、雑誌などメディア関係者だけでなく、研究者、作家、芸術家、編集者、在外公館員などの方々にも参加していただければ、思想の輪が広がり、深まります。
もう一つ、倶楽部の目的に掲げるのは「ジャーナリズムの復権」です。設立発起人である理事4人はすべて新聞記者出身で、30年以上の取材歴があります。自省の念を含めて、そろって感じているのがジャーナリズムの現状に対する危惧です。社会の歪みを正し、格差のない自由で活力ある社会を目指す世論形成がジャーナリズムの使命です。その機能が弱まっているのではないか。
インターネットや会員制交流サイト(SNS)の影響で若い世代を中心に新聞、テレビ、ラジオ、雑誌など旧メディア離れが急速に進んでいます。一般市民もネットやSNSを使ってニュースを流し、その背景まで情報発信できるようになって既存メディアに頼らずに済むという意見もあります。本当でしょうか。
メディアのネット化が進んでいる米国では地方新聞社の経営破綻が相次ぎ、「新聞砂漠」と言われる都市さえ珍しくありません。政治や行政へのチェック機能が失われ、汚職や犯罪が多発しています。地方におけるジャーナリズムのあり方を考え、復権のための方策を編み出したい。それは地方の復権にも結びつくはずです。