投稿者:古賀 晄
Facebookでつながっている友人に王原新悟君という「ベッドに寝たきりの詩人」がいる。彼は今年で45歳になる。指定難病の脊髄性筋萎縮症(SMA)の一つで乳児期に発症するウェルトニッヒホフマン病と診断され、7歳から鹿児島県の南九州病院に入院している。この疾患は脊髄の運動神経細胞の病変によって起こる筋萎縮症で、手足の筋力低下と筋萎縮が徐々に進行していき、30歳まで生きれば長生きとされている。自発呼吸が難しくなって気管切開して人工呼吸管理を受けているため声は出せない。10代のころは電動車いすで病棟を駆け回っていたが、肺炎を起こしたのをきっかけに寝たきりとなったという。
王原君と会ったのは鹿児島在勤中の27年前だ。17歳の彼が病床で1日1首ずつ短歌を詠んでいると聞いて病院を訪ねた。短歌は対面会話補助具(フィンガーボード)の文字を指で示して養護学校の先生や看護師に書き取ってもらって700首を超えていた。「生きる証しに短歌を詠んでいる」という王原君の姿を新聞のコラムに書いた。20歳の時には1677首に達した短歌と詩と作曲した楽譜をまとめて作品集「つれづれに」を出版したが、私の転勤とともに交流は途絶えてしまった。
それから15年後、私の記事を整理していた娘がコラムに目を止め王原君の消息が気になってウェブ検索すると存命だとわかった。私と同じFacebookのユーザーだと知って、さっそく友達申請をして今日に至っている。彼がFacebookやYouTubeにアップしている作品は、まろやかな想いや温かさに満ちたものが多く、恋歌と思われる詩もある。独特の表現や造語が散りばめられているのも興味深く、ベッドに寝たきりの王原君が空想の世界を駆け巡っているのだろうと想像できて楽しい。
重い障がいのある人が社会とつながるのにソーシャルメディア(SNS)が大きな役目を果たしていることに気がついた。そこで「どのようにSNSを駆使しているのか」知りたくて、メッセンジャー機能を介してのインタビューを提案すると快諾してくれた。
答えてくれた内容を要約すると、初めて会った時に「パソコンもやりたい」と言っていたが、今はパソコンを使いこなしていて、例えば詩を書く時やSNSの投稿は上肢障害者向けWindows操作支援ソフトを親指でピンスイッチという器具を操作して入力しているという。また、7年前に始めた作曲はフリーソフトを使っているそうだ。
「SNSに投稿した作品に込めた想いを誰に伝えたいのか」と問うと、「不器用な人間なので、そのようなことは意識していない。子どものころから何か表現することが好きなだけ」と彼は答えた。
Facebookの友達は50人を超え、閲覧回数などから一定のフォロワーがいることからも、彼がSNSというツールによって社会とつながっていることがわかる。病床で一生を過ごし医療機器によって生命をつないでいるだけではないのだ。王原君は社会と想像の世界を自由に飛ぶSNSという翼を得たのに違いない。(4月25日)