投稿者:古賀 晄
すでに運転免許証は7年前に返納した。最近、高齢運転者同士の衝突事故や高速道路の逆走が報じられると、免許証の返納は正しかったと思っている。ただ、難儀していることがある。毎月1回、定期受診で通院する病院までの公共交通手段がないのだ。自宅からわずか2km、健康ならウオーキングでたやすい距離だが、坐骨神経痛持ちだから徒歩は苦しい。タクシーで何度か通院したが、運転手不足が響いているのだろうか、「流し」はまず捉まらない。予約料と迎車料が加算されて片道1400円もかかる。往復だと1割負担の診療代より高くつく。
迷った挙句、ごくありふれたママチャリを買った。2年ほど前、ママチャリの値段は約1万円だったはずだ。数軒の自転車販売店を回ったけれど、そんな値段ではどこにもなかった。結局、一番安いものが17,000円!ヘルメット代、チェーン錠、盗難保険料など含めると支払額は35,000円にもなった。急激な物価高を突きつけられるとは想定外だった。が、新しいおもちゃを買ってもらった子どものようにちょっと嬉しかった。
「自転車を買った」とFacebookに投稿したら、「齢を考えろ。自転車に乗るのは絶対にやめろ」と、さっそく同年配の親友から心配するコメントが届いた。
中学、高校とも自転車通学だった。砂利道でも暗い夜道でもすっ飛ばしていたし、50歳代にはサイクリングが趣味の一つだった。それに自宅と病院間の歩道は幅広くて自転車専用レーンもある。
だが、「君の運動神経じゃ危ない」「タクシー代より命が大事」「昔、取った杵柄など当てにならんぞ」などと、ほかの友人も参戦して「自転車やめろ」の大合唱になった。状況を丁寧に説明して「通院以外には自転車は使わない。安全運転に努める」と、気遣いに対し有り難く感謝して返信した。本心は多少の反骨心、あと半分は「まだ大丈夫」という自信があった。
しかし、やっぱりコケた。
自転車通院の初めての朝、入念に下調べしていたルートに沿って病院に向かった。歩くより快適なのは間違いなかった。ただ、自転車同士の離合や歩行者と接触しそうになり少し緊張した。「歩道幅が広い」と言い訳していたが、1か所だけ国道沿いの歩道幅が狭くなっている。転倒したのは、正にその場所だった。中学生の自転車集団とすれ違った際に車道に倒れ込んでしまった。
左膝を強打してすぐに立てなかった。左手首につけたスマートウオッチの転倒検知機能が作動、けたたましい警報音を発した。立ち上がるのに難儀していると、中学生2人が駆け寄って助け起こしてくれた。渋滞する交差点近くで、車がノロノロ運転だったのが幸いだった。
病院の受付で、「自転車で転倒して膝をちょっと擦りむいた」と告げると、本来の呼吸器内科の検査をすっ飛ばして、「まず外科で手当てを」と指示され、院内で転倒や介助が必要な患者用の「転倒要注意者」の下げ札を首にかけられた。治療は外科医が傷口を入念に見た後、看護師が消毒の後、軟膏を塗りガーゼを貼っただけで済んだ。
2024年の自転車が関係する交通事故件数は全国で67,531件だが、死者数327人のうち65歳以上が約7割を占めている。(2025年2月、警察庁発表より)。この現実を突きつけられると、自転車通院は『やっぱり年寄りの冷や水』か。――友人の忠告が身に染みる。(6月25日)