投稿者:岸本 隆三

 今回の熊本地震から3週間が過ぎた。犠牲者のご冥福をお祈りし、余震が続き、猛暑、酷暑のなか過ごしている被災者にお見舞いを申し上げます。10年前の2度の震度7が起きたのに、どうしてまた熊本なのか。他では起きていないのにと思う。前の時にはちょうど遍路で四国を歩いていた。結願して帰福し、「何もしないより、偽善でもするほうがいい」との高校の同級生に言われ、ボランティアに行った。その受け入れが始まったとのニュースを見て、参加したかったのだが、断念した。
 2017年の九州北部豪雨の際には福岡県朝倉市に入り、熱中症寸前で、やっとの思いで帰宅した。後期高齢者にもなり、熱中症などでかえって迷惑をかけることになるのが明らかだからだ。申し訳ない。違うかたちで、少しでもと思っている。
 先日、車で久留米市に行く用事があり、ついでに太宰府市の九州国立博物館を訪れた。2012年、対馬市の観音寺から盗まれ、昨年5月に13年ぶりにやっと韓国から帰還した長崎県指定有形文化財「観世音菩薩坐像」を見るためだ。
 朝鮮半島や中国から九州などに伝えられた仏像や仏画34点(後期)を特別展示する「九州渡来仏」の1つとして公開されている。平常展・文化交流展示室の一角(L室)の入り口正面のガラスケース内に鎮座していた。国指定重要文化財(重文)などもあるのだが、堂々の中心展示物だ。やっぱりニュース性があるからか。
 坐像は2012年12月、盗まれた。13年1月、韓国警察が窃盗団逮捕と坐像と一緒に盗まれた海神神社(対馬市)の重文「銅像如来立像」確保を発表した。ところが、翌月、韓国の浮石寺が坐像は「14世紀に倭寇に略奪された」と所有権を主張し、保管していた韓国政府を訴え、大田地裁は返還しない仮処分を出した。
 時期も悪かったというよりそういう時期だから起きた窃盗事件だったのか。2011年に韓国憲法裁判所は韓国政府が元従軍慰安婦の賠償請求権について解決に向けた努力をしないのは違憲と決定、その年の12月、ソウルの日本大使館前に元従軍慰安婦を象徴する少女像が設置された。そして、2012年8月、当時の李明博大統領(当時)が島根県・竹島に上陸する。続く朴槿恵大統領は、元従軍慰安婦関係の解決を日本に迫り、日韓関係を悪化させ、高裁や地裁で、元徴用工訴訟で日本企業に賠償命令がでても動かずじまい。2017年には文在寅大統領にかわり、同様の大法院(最高裁)判決があり、確定しても放置したまま。元従軍慰安婦問題では2015年の「最終的かつ不可逆的」な解決を確認した日韓合意を事実上ほごにした。
 坐像返還問題は日韓関係悪化の1つにとらえられた。立像は所有権を訴える寺社などがないとして15年に返還されたが、坐像は返還されず、なんと17年1月、大田地裁が浮石寺の所有権を認める判決を出した。
 その後も2018年12月、韓国艦船による海上自衛隊機への火器管制レーダー照射問題が起き、日本政府はついに2019年夏、韓国向け半導体素材の輸出規制厳格化に踏み切り、韓国では日本製品の不買運動が起きるなど戦後最悪の日韓関係と言われた。
 22年5月に大統領となった尹錫悦大統領は日本との関係改善、強化に乗り出した、2023年3月、元徴用工訴訟問題で韓国政府傘下の財団が被告の日本企業の賠償金相当額を支払う解決策を発表、日韓関係が劇的に好転した。李在明大統領になっても「実用外交」を掲げて、反日を封印しており、良好な日韓関係となっている。
 今年5月の読売新聞と韓国日報が行った世論調査では相手国に親しみを感じると答えた人が日本で49%、韓国で43%と同じ質問をしている2023年以降で両国とも最も高かったという。昨年の韓国訪日客は940万人にのぼった。福岡市天神の若いカップルの多くは韓国人に見えるほどだ。
 尹大統領の流れに乗り、坐像訴訟は高裁が同年2月、観音寺の所有権を認め、10月には大法院が浮石寺上告を棄却、確定した。浮石寺での法要と公開などを経て25年5月、対馬に帰って来た。対馬でも一般公開され、九博では今年7月7日から公開、8月30日まで。70歳以上は無料なのがうれしい。
 もっとも歴史問題は両国がある限り消えてなくならない。かつて韓流ブームも経験している。一転してしまうのが日韓関係だから、油断はならない。
初めて見た観世音菩薩坐像は静かで優しいお顔だった。(日韓の事実関係は読売新聞による)(8月21日)