投稿者:岸本 隆三

 北海道釧路市出身の直木賞作家・桜木柴乃氏のファンだ。作品はいろいろな魅力があり、見方もあるのだろうが、私はヒロインの多くがアナーキーに感じられるところが好きだ。作品の舞台は釧路市や道東が多い。そしてよく登場する釧路川河口に架かる幣舞(ぬさまい)橋を見たいと8月3日―6日、同市などを福岡ペン倶楽部理事のMさんと2人で旅行した。2人とも初めてだ。
 福岡空港から羽田で乗り継いで釧路空港には午後1時過ぎ到着。レンタカーで、桜木作品にもよく出て来る釧路湿原を見る細岡展望台に。高台から見渡すのだが、「広いなー」と思っただけで、湿原の魅力は分らなかった。釧路川沿いのホテルにチェックインして、温泉に入り、すぐ近くの幣舞橋に。橋のたもとには「釧路の夜」の歌碑があった。スイッチを入れると美川憲一の歌が流れる。いいなー。川沿いの遊歩道から国道に上がると立派な橋なのだ。片側3車線に歩道。欄干には4体のブロンズ像。左岸の下流側歩道には人だかり。夕日を見ているようだ。
 北海道の朝は早い。翌朝、明るくなった4時過ぎ、市街地にヒグマは出ないだろうと散歩。幣舞橋で、美川の歌声をまた聴き、北大通(一部は国道38号線)をJR釧路駅に向けて歩く。早すぎて、同駅は閉まっていた。地下道を通って西側に出ると空き家、空き地が目立ち、すごくさびれている。この辺りも桜木作品には出てくるのだが、こんなにひどくはなかったような。跨線橋で戻り、北大通の少し脇を歩くと空き地の多さに驚く。昨夜飲んだ繁華街も空きビルが目立つ。水産業の不振などでの人口減や中心市街地のドーナツ化現象なのだろうか。
 ホテルで朝食をとっていると霧が出てきた。そうなんだ。釧路は霧の街なのだ。それもよかろうと思っていた。この時には。
 旅のもう一つの目的は納沙布岬(根室市)で北方領土を見ること。レンタカーで幣舞橋を東に渡るとロータリー。4、5か所から車の出入りがある。慣れていないので、ゆっくり南側の道を東に向けて行く。海岸線を行こうとナビは入れていなかった。空き地にはソーラーパネルが林立していて「すごいなー」と話していたら行き止まり。引き返して少し海岸を離れた道に。
 厚岸町の展望台で厚岸湾を眺め厚岸湖にかかる橋が見える。これを渡って進めば海岸の景色が見えたのだが、内陸部のJR根室線近くを進んだ。広い、広い牧草地が続く。根室線沿いの道では両側を防風林のように樹木が続く。そしてクマ注意の看板が見える。
 ヒグマは出るのだ。翌日(5日)の釧路新聞には社会面に「クマ目撃情報」のコーナーがあり、厚岸と別海で合わせて3件の情報がベタで掲載されていた。うち1件は「4日午前9時10分ごろ、(別海)町西春別の町道でクマがシカを食べている様子をドライバーが目撃。クマは体長約1・5㍍で、シカを引きずりながら道路を西から東へ横断。現場にはシカの足のようなものが残されており、町職員が回収した。」怖いなー。
 根室半島の太平洋側の海岸に出ると霧が立ち込め、右手にすぐあるはずの太平洋はほとんど見えない。歯舞集落辺りで、突然シカが道を横断した。そう言えばシカ注意の標識はいたるところにあった。
 正午ごろ、ついに納沙布岬に着いた。駐車場に車を入れるも一面の霧だ。すぐ近くの、(後で「四島のかけ橋」と知る)巨大モニュメントもぼんやり。数百㍍先にあるはずの道内初の洋式灯台もまったく見えない。もちろん歯舞群島の3・7㌔沖合の貝殻島、12㌔先の水晶島が見えるはずがない。
 一帯には各種団体が建立したり設置したりした北方領土関係の記念碑や「本土最東端」の標柱などがたくさんある。それらを見て回り霧が晴れてくれないかと待つ。そう言えば、本土最・東西南北・端はこれで全て訪れた。最北端は北海道・宗谷岬、最南端は鹿児島県佐多岬だが、最西端は長崎県佐世保市小佐々町楠泊だ。念のため。
 少し霧が晴れて灯台が見え出した。灯台に行き、北方領土関係の資料などを展示している「北方館」「望郷の家」を見学する。設置している望遠鏡がうらめしい。結局、1時間以上待っても霧は晴れてはくれなかった。(下に続く。8月21日)

霧で北方領土は見えなかった(8月4日)