投稿者:岸本 隆三
街の書店も減っているという。福岡市西区の地下鉄・JR姪浜駅ビル内の書店がなくなっているのに先日気が付いた。たまに月刊誌などを買っていたが、閉店は今年に入ってからと聞いた。卒業した高校の田舎の書店はとっくになくなっている。しかし田舎ならともかくまだ人口が増えている政令指定都市のそれも地下鉄ビルの書店が、と考えるとショックで、書店減を実感した。電子書籍は増えているようだが、書籍、雑誌は売れていないのだ。
出版科学研究所のホームページによると1996年ピークだった書籍と雑誌の売り上げは2兆6564億円、昨年は1兆612億円とその半額にも満たない。全国の書店は2003年度2万0880店が2022年度1万1495店とほぼ半減している。なぜ経済産業省か、分からないが、同省は3月「書店振興プロジェクトチーム」を発足させたという。
大型書店のある街に住むことは小さな幸せの一つかもしれないと前から思っていた。ちょくちょく寄りたいのだが、最寄りのバス停から博多駅前までの西鉄バスの料金は1月の値上げもあってちょうど500円。往復では1000円。新書、文庫本が1冊買える。他の用事がある時しか、もったいなくてなかなか行けない。
福岡ペン倶楽部で連続講座を開講してくれた大阪大学名誉教授の猪飼隆明が一昨年から「出る。出る」と言っていた『維新変革の奇才 横井小楠』(KADOKAWA)が3月にやっと発刊した。出版社もなかなか刊行しない。「あとがき」しかまだ読んでいないが猪飼は「出版事情の厳しい中…」と編集者に謝意を述べている。ノンフィクションを書いている知人は「ノンフィクションは売れないんですよ。出版社に預けて3年になる原稿があります」とぼやいていた。
先日、用事があり、やっと書店に寄って、「税別3600円」に一瞬、たじろいだが店の手提げかごに入れた。せっかくだからと新書も文庫もかごに入れていると文庫で『熔(と)ける 大王製紙前会長井川意高の懺悔録』(井川意高、幻冬舎文庫)が目に入った。2013年に出版された新刊書(双葉社)は読んでいた。文庫になった(2017年)のは知らなかった。「緊急重版!カジノで失った106億8000万円」の帯があり、「4月5日11版発行」と大リーグのドジャース大谷翔平の元通訳水原一平の賭博事件を意識しているのは明らか。こういうのは早いのだと思いながらかごに入れた。
井川はマカオなどのカジノで106億8000万円負け、その穴埋めとして大王製紙の連結子会社から55億3000万円を借り入れた会社法違反(特別背任)を問われ、新刊書では懲役4年の実刑が確定、収監される直前までが書かれていた。彼は賭博容疑で逮捕されたわけでもなく、また借金は全額返済している。文庫本は「文庫特別書き下ろし 出所」の章が追加収録され、2013年10月、収監され、2016年12月に仮出所したことが描かれている。大王製紙会長を追われるなど多くを失い、刑務所まで入っても井川はカジノを非難せず、擁護しているのがいい。「トマス・ホッブス(イギリスの哲学者)は『人権の中には愚行権もある。他人の権利を侵さない限り、どんなに自分にとって不利なことであっても自己決定する権利がある。愚行権も基本的人権の一つだ』と言った。愚行権を否定するのであれば、人はカジノどころか山登りも冒険もできなくなってしまう」と書く。さらにギャンブルにおけるいわゆる「寺銭」については、宝くじは55%、競馬は25%なのにカジノは平均3%程度だと説明する。
カジノ法案は成立し、いよいよ大阪にカジノができるようだが、水原一平事件はまたもや水を差した。水原事件には救いがない。大リーグに関係した仕事をしながら違法賭博に手を出すか、さらに負けの穴埋めに実質雇用主であり、かつ信頼されている大谷の口座から金を盗むか。「他人の権利」を大いに侵している。難しいことを言わなくても多くのギャンブラーは「自分の金でやれ」であり、品は悪いが「自分の尻(けつ)は…」だろう。それにしても大谷は、今原稿を書いている時(5月7日午後1時半)で3試合連続11号だ。すごいなー。(敬称略)(5月7日)