投稿者:岸本 隆三
12月23日は作家葉室麟(1951―2017年)の祥月命日。葉室が生前、30数年にわたって通っていた福岡県久留米市文化街の割烹「小鳥」が葉室の七回忌に合わせるように、来年1月24日に閉店する。筆者も1988年から2年余の久留米在勤中には通い、離れてからもたまに顔を出していた。葉室との接点がなくなると同時に、久留米に知った店がなくなってしまう。残念でならない。馬齢を重ねるたびに馴染みの店がなくなっていく。
店は1975年ごろ、現在地と異なる日本家屋にあったものを女将の横尾ミチ子さん(77)が引き継いだ。葉室も同年生まれの私や同年代の人の多くはこの店から通い始めた。葉室はフクニチ、私は読売、他に西日本、朝日、毎日の各新聞社にNHKと久留米市政記者クラブの夜のたまり場となっていた。記者の歓送迎会などの会場にもなり、さらにフクニチ早朝野球のチームを記者クラブで組んでいたが、その飲み会の場ともなっていた。筆者在勤中に相手チームが試合に遅刻して、記者クラブチームの不戦勝となった(その後試合をしたが負けた)のは初勝利ではないかと言われ、夜は大宴会になったのを憶えている。飲み会ではなくカウンターでもよく一緒になった。
筆者の異動後、現在のビルの一階に移り、店も広くなり「料理がいい」などと言われ繁盛した。葉室が50歳代なかばで作家デビュー後は単行本が出るたび、サイン本を持って来た。それを一番目立つカウンター正面の棚に飾って応援。葉室が2011年1月、候補5回目で第146回直木賞を受賞した時には棚の本は17冊になっていた。もちろん各地から記者や市役所広報課関係者ら約30人が集まり、祝賀会を開いたのも小鳥。葉室は変わらず、その後も通い「ほっとしました。もうこれで直木賞候補にならなくてすむのが一番嬉しいです」との受賞のことばを掲載している「オール讀物」直木賞発表号(2011年3月号)のグラビアで小鳥のカウンターで飲む葉室の写真が掲載され、横尾さんも本も写っている。多作だったこともあり、棚の本は葉室の死後は横尾さんが買い、現在は約80冊になるという。
閉店の噂を聞き、過日、毎日新聞OBとのぞいた。横尾さんは元気なんだけれど、本はどうしたものか、展示、保存してくれるところはないか悩んでいた。
閉店は横尾さんの膝の具合が悪いことと後継者もいないための決断。この時期になったのは葉室の七回忌を迎えたためもあるようだ。
油断していると飲食店は閉店する。25年前から2年余、佐世保市でほぼ毎日、通っていた居酒屋が店主は元気なのに80歳を過ぎたこともあり数年前に閉店、土地は売却され更地になった。思い出も更地になった気がした。佐世保ももう知った店はない。福岡市だって考えたら通う居酒屋は17、8年前に開拓した店だ。店主は私より高齢だ。コロナ禍も乗り越えたのだから、頑張って欲しいと念じている。(12月23日)