投稿者:岸本 隆三
東京地検特捜部が2019年7月の参院選を巡る大規模買収事件で被買収の100人全員を不起訴(起訴猶予)処分にしたのは、驚いた。買収側の河井克行・元法相が東京地裁で実刑判決を受けても被買収の処分が出ないのは不思議に思っていたが、こんな処分とは。何があったのか。
読売新聞によると、次席検事は「現金を積極的に受け取った人はいない」「起訴と不起訴の線引きができない」など理由を上げているという。「線引き」こそ、起訴権限をほぼ独占している検察の本来業務ではなかったのか。広島の政治家ら40人は、選挙のプロであり、摘発後も32人が公職にあるという。悪質であり反省もなく、情状もあったものではないと思うが。金額も少なくはなく過去の処分との公平さを欠くなど、せっかく元法相の有罪判決を勝ち取ったのに非難、批判を浴びている。やっぱり河井被告の裁判で弁護側が「検察側は立件をしない約束で自供を得たのではないか」との主張が当たっているのかと思ってしまう。検察審査会で「起訴相当」と議決され、再捜査となる可能性が高そうだ。しかし、それらはいずれも織り込み済みの処分発表だろう。それだけに分からない。
不起訴と言えば、検察捜査、処分が問題となる度に思い起こすことがある。
福岡地検は1986年5月、三井石炭鉱業三池鉱業所・有明鉱(すでに閉山している)で1984年1月18日、死者83人、CO中毒患者16人を出した坑内火災事故で、業務上過失致死傷容疑で送検されていた所長ら19人を不起訴処分とした。
当時、炭鉱事故の多くは爆発や水没、現場に関係している坑内員の死亡などで原因究明、過失責任の追及が難しいと言われていた。しかし有明鉱の事故は現場がほぼ保存され第一発見者ら関係者が生存していた。福岡県警は、出火原因は連絡斜坑内のベルトコンベアーキャリア台の鉄製支柱が老朽化して腐食、傾いてローラーと接触して発熱し、たい積した炭粉が発火したと断定。数か月前にもベルトコンベアーの火災があり、予見は可能で、回避の注意義務があるにも関わらず、点検、清掃を怠ったなど業務上過失は明らかと地検とも協議の上、1985年5月、書類送検した。県警幹部は自信のある送致と話していた。
地検は公安部長ら5人の検事を投入、100人を上回る係員、鉱員らの参考人調べを進め、9月から19人の被疑者調べに入った。11月には所長の調べも終え、立件(起訴)に向け、調べは着実に進んでいた。ところが年末か正月明け、中心だった検事らに異動の内示(内々示だったからかもしれない)があったと聞いたころから立件しない雰囲気になってしまった。一変したのだ。2月に「全員不起訴へ」の原稿を書いたが、流れは変わらないままだった。
当然のことながら、不起訴処分発表は証拠判断で事故を予見することは困難などだった。公判維持のことも考えたのかもしれない。しかし一変したのは、それだけとは今でも思えない。
その時、私は検察庁の「厳正中立」は幻影なのだと思った。そして今また、「一変」の原因の裏を取り、原稿にしなかった自分をバカだった、と。(7月14日)