投稿者:古賀 晄

 2023年2月、福岡県の33の動物愛護団体と19市町長が福岡県知事に「殺処分ゼロのため県動物愛護センターで野良猫8,000匹の無料不妊手術を」との要望書を署名5万筆とともに提出した。公益財団法人「どうぶつ基金」が同県で5,500匹余の「飼い主のいない猫」(地域猫)の無料不妊去勢手術をしてきた。その費用は寄付金が頼りだ。だが市町村からの申請は1万匹を超え応じきれなくなったのだ。
 国内外から猫好きの観光客が訪れる「猫スポット」新宮町・相島を取材した。
 玄界灘に浮かぶ相島まで新宮町営渡船で20分、島の港に着くと何匹もの猫が人懐っこく寄って来る。国内の猫ファンの中に韓国から訪れた若い女性二人連れがいた。「猫の聖地」をネットで検索して相島がヒットしたのだそうだ。
 CNNが2013年の番組「世界5大猫スポット」で相島を紹介したのがきっかけだ。SNSで世界中に広まり国内外から猫目当ての来島者がピーク時には年間約10万人にのぼった。コロナ禍の行動制限で激減したものの2023年に入って復活の兆しがみえる。
 島民は約70年前、約1,000人を数えた。漁業の衰退や高齢化で「現況は島民200人、地域猫200匹」という。かつては木綿製の漁網を食い荒らすネズミ対策に飼われた猫は島民とは共存が当たり前だった。漁業の衰退に伴い過疎化が進む反面、野良化した猫は増えるばかり。餌もなくやせ衰えても子を産むからだ。猫の糞尿や鳴き声に悩む島民も少なくない。
 一方、「痩せて病気の猫が多い」「保護すべきだ」などの苦情が町役場に殺到した。世話をする数少ない島民には手に余る状態で、このままでは殺処分されかねない。
 山崎祥惠さん(60)(福岡市・特定非営利活動法人SCAT代表理事)は保護活動に乗り出したものの、苦渋の決断を迫られた。不妊去勢手術をして一代限りの寿命を全うさせる道だ。猫の世話をする住民と「相島猫の会」を設立、「どうぶつ基金」に援助を申請した。
 不妊去勢手術した相島の地域猫は累計276匹(2023年1月末)。手術をしていない猫と見分けるため、耳先をV字にカットする。その形が桜の花びらに似ているので「さくら猫」と呼ばれている。
 相島の地域猫は自然死などで40匹減り、一部は手術後に島外の里親に貰われて現在は約200匹。「相島猫の会」の夫婦が毎日7か所の“ネコ食堂”で給餌と掃除、病気の猫への投薬などをしている。メンバーの女性(60)は、「10年後には50匹ほどになるかな?まだ家猫もいるからゼロにはならない」と。
 月に5、6回、キャットフードを届けている山崎さんは「猫は感情豊かな隣人であり、(人間の都合で)殺処分すべきではない」と強調した。
 動物保護活動のボランティアは過重な費用負担を強いられ疲弊している。行政が手をこまねいている場合ではない。