投稿者:古賀 晄

 「青春とは人生のある期間を言うのではなく、心の様相を言うのだ」。詩人サムウェル・ウルマンの詩「青春」には、しばしば勇気づけられる。創立70周年記念の西南シャントウール第45回定期演奏会(2024年11月9日、アクロス福岡シンフォニーホール)を聴いて、この詩が浮かんできた。
 世界平和を祈る「世界のうた」に始まり、男声合唱のための名曲「島よ」「水のいのち」は男声合唱ならではの重厚なハーモニーでさながらクラシック音楽のようだった。また、西南学院大学出身のミュージシャン財津和夫氏のコレクションではヒット曲「心の旅」「青春の影」「サボテンの花」「切手のないおくりもの」を、会場を埋めた1500人余の聴衆と歌い、一体となって堪能した。
 西南シャントウールは、西南学院大学のグリークラブOBによる社会人合唱団で会員は50人。平均年齢は75歳を超えている。しかし、歌声は衰えを見せず質の高い合唱力を維持しているのは、その情熱と毎週2回の練習の成果にほかならない。今回の定演には、やや若い世代のOBシンガーズ、東京と関西OB、現役グリーメンが加わり総勢120人と圧巻だった。
 1954年、西南シャントウールを結成した当時は、合唱界の重鎮からは「社会人の男声合唱は(存続が)むずかしいよ」と忠告をされたそうだ。社会人だと転勤や残業がつきもので人数が揃わず4部合唱が成立しない時もあり練習会場の確保にも苦労したが、「合唱をやりたいという情熱と若気の至りで突っ走ってきた」と幹部の一人は語っている。
 私も大学ではグリークラブの一員として定期演奏会や全国合唱コンクールを経験したが、新聞社では転勤族。退職後は実力が追い付かず一人のファンとして応援する身だ。専用の練習会場がないから練習場はコロコロ変わる。とりわけコロナ禍の3年間は、会場探しに難航した。合唱は典型的な密集、密接、密閉の「3密」。これを回避するため、30分ごとに練習を中断して窓を開ける、全員マスクを着用、立ち位置の間隔を開けるなどを徹底して乗り切った。
 西南シャントウールに限らず社会人合唱団の共通課題は「高齢化」だ。団員の供給源である大学男声合唱団そのものが衰退してすでに休部に追い込まれた大学もあり、西南学院大学のグリークラブも現役団員はわずか2人(11月現在)。OB会がグリークラブへの勧誘を熱心に支援しているが、同大学では女子学生が6割を超え男女比率が逆転した現状もあり成果が出ていない。
 大学男声合唱団の衰退は全国共通の問題でもある。授業日数が増えて出席が重要視されるため学生の自由時間が格段に減ったことや就活時期が3年次に繰り上がったのが主な要因のようだ。「合唱のような全員が集まって先輩から後輩へ時間をかけてスキルを獲得していくスタイルのサークルは非常に不向きな時代」との指摘もある(同志社グリークラブ出身、合唱指揮者伊東恵司氏のブログより一部引用)。
 「働き方改革」が本当に定着したら社会人合唱団が息を吹き返すのではないかとひそかに期待している。「実年齢は後期高齢者だが精神は青春真っただ中」を彷彿とさせる西南シャントウールの演奏はウルマンの詩の続きを思い出させる。
 「理想を失う時に初めて老いが来る。歳月は皮膚のしわを増すが、情熱を失う時に精神はしぼむ」(12月12日)