投稿者:大矢 雅弘

 現行健康保険証の新規発行を停止し、保険証機能をマイナンバーカードに持たせたマイナ保険証に一本化する12月2日まで、10日余となった。私自身はマイナ保険証を登録していないどころか、マイナンバーカードも持っていない。それでも、あるいは、それだからこそと言うべきか、マイナ保険証をめぐる動向に関心を持って見守ってきた。
 福岡市内のかかりつけ医の受付そばの壁には、厚生労働省の「ご注意ください! 本年12月2日から現行の健康保険証は発行されなくなります」「マイナンバーカードをご利用ください」と書かれたシールが貼られている。
 だが、あわててマイナ保険証を登録する必要はない。医師らでつくる全国保険医団体連合会(保団連)はホームページで、「いま、手元にある健康保険証は12月2日以降も使えます。お手元の健康保険証は絶対に捨てないでください」などと健康保険証についての対応の仕方を詳しく紹介している。
 ホームページ冒頭にある「Q&A」によると、今の健康保険証の有効期限が切れたあとは、「資格確認書」が交付される。ただし、マイナ保険証を持っていない人に限定される。資格確認書はいまの健康保険証と同じように医療機関の窓口で見せるだけで使える。
 ただ、マイナ保険証を使っていないのに登録だけしていると、資格確認書の交付対象にならない。このため、保団連は資格確認書をもらうためにも、マイナ保険証の登録の解除を勧めている。厚生労働省によると、マイナ保険証の保険証登録の解除が可能になった10月28日以降の解除申請は11月8日時点で792件あった。
 総務省によると、2016年に発行が始まったマイナンバーカードの保有枚数は約9388万枚。厚労省によると、そのうちマイナ保険証に登録しているのは9月末時点で約7627万人。ところが、実際に保険証として使っているのは9月末時点で13・87%と低迷している。
 マイナ保険証の利用率向上に躍起になる厚労省は5~7月を「マイナ保険証利用促進強化月間」とした。マイナ保険証の利用の増加幅に応じて、病院や薬局に支給される一時金の上限を20万円から40万円に倍増するという、いわば「禁じ手」にまで手を染めた。それにもかかわらず、成果に乏しかったといえる。
 マイナ保険証をめぐっては、オンラインにより資格確認がスムーズになるとされていた。だが、現実には、医療機関で「無効」と表示されるなどして、患者が医療費の全額を立て替えた事例や、「他人の情報にひもづけられていた」との事例もあるなどトラブルが相次いだ。利用者の不信感が強まるのも当然だろう。
 保団連は、2024年5~8月の調査で、回答があった医療機関約1万件のうち約7割で、マイナ保険証の保険資格の確認をめぐってトラブルがあったと発表した。コンピュータで処理できない漢字を使っていて、患者の名前や住所が黒丸表示になってしまったり、資格情報が「無効」になったりといったトラブルがあったとしている。
 利用者だけでなく、医療機関の不安はいかばかりだろう。マイナ保険証に対応して、昨年4月から、医療機関にもオンラインでの資格確認が省令で義務付けられた。保団連によると、マイナ保険証を利用するには医療機関で大がかりなシステム整備が必要で、機器の費用負担や事務的負担も非常に大きくなるという。保団連のアンケート調査によると、「マイナ保険証が義務化されたら廃業せざるをえない」との回答が19%にのぼり、全国で1万712もの医療機関が廃業する可能性があると試算している。
 オンライン資格確認をめぐっては、東京保険医協会を中心とした有志の医師・歯科医師ら1415人が、法律上の義務がないことの確認を国などに対して求める訴訟の判決が今月28日、東京地裁で言い渡される。どちらが勝訴したとしても、控訴に至る可能性が高いとみられるが、この判決の行方も注視している。
 警察庁は来年3月から、マイナンバーカードに運転免許証機能を持たせる「マイナ免許証」を始めると発表した。こちらは希望者が対象で、従来の免許証も持つことができる。新たな「マイナ免許証」か従来の免許証、または両方を持つことが可能になる。マイナンバーカードの取得はあくまで任意なのだから、免許証のような手順を踏むのが合理的ではないかと言わざるを得ない。
 マイナ保険証はさまざまな角度から問題点が指摘されているが、現行の健康保険証を廃止せず残すことで、問題は解決することばかりだ。いまこそ、現行の健康保険証の廃止を撤回し、存続に向けて方針転換すべきだ。(11月19日)