投稿者:古賀 晄
福岡市植物園(中央区小笹)のホームページに「10月23日にアサギマダラが飛来した」とあったので、さっそく同市中央区小笹の植物園へ出かけてみた。おおよそ、毎年この時期には南の国に海を渡る前のアサギマダラが植物園にやってくるので楽しみにしている。入口に近い野草園のフジバカマにたくさんの アサギマダラが蜜を吸い、花から花へと飛び交っていた。翅(し=羽根)を広げたサイズは約10cm、浅葱色(あさぎいろ)と翅に黒い縁取りがあり、あまり人を恐れないで優雅に舞う姿に見惚れてしまう。
アサギマダラは気温が摂氏20度±5度になると飛来のスイッチが入るという。春から初夏(4~6月)にかけて台湾や香港、南西諸島から九州本土へ海を渡って来る。暑い時期は本州の高地で生活し、北海道でも確認された例があるそうだ。逆に気温が下がる秋になると、九州本土を経て屋久島→奄美大島→沖縄→台湾へと移動する。ただ、福岡市と台湾の距離は直線距離で1280km、同じ個体がこれだけの距離を飛ぶわけではなく、世代交代を繰り返しながら北上する「多世代渡り」。だが、秋の南下の場合は1世代で一気に長距離飛行する例もあり、個体に印をつけるマーキング調査によると最長2500km以上の移動も確認されている。鹿児島県立博物館の研究では、飛行高度は1000m以下の大気境界層で風向きや気流を利用して飛んでいることがわかった。
気がかりなのは地球温暖化の影響だ。春の気温上昇が早まり、北上開始が早くなる傾向があると指摘されている。また、長野県や福島県、北海道でも飛来が確認されており、生息域の北限が拡大している可能性があるほか、北九州市八幡東区の皿倉山(標高662m)では、産卵や繁殖も確認されており、定着の兆候を示す証拠だとも言われている。
1980年からは全国で市民参加型のマーキング調査が始まり、移動経路や距離の変化などがわかってきたほか、東京大学や鹿児島県立博物館などが気象条件や遺伝的多様性に関する研究も進められている。
鹿児島在勤の時に奄美大島で越冬するリュウキュウアサギマダラを知った。アサギマダラよりもひと回り小さく翅を広げた長さは約8.5㎝、浅葱色の翅の模様が細かい。翅をたたんだ状態ではアサギマダラより灰茶色に見えて、気温が下がると木の枝やつるに密集してつかまって越冬している姿がよくみられる。南西諸島や台湾、東南アジアにも生息しているそうだ。
蝶やトンボなど昆虫の天敵は鳥で捕食されやすいが、アサギマダラは幼虫の時にガガイモ科のサクラランやイエライシャン(夜来香)、リュウキュウアサギマダラの幼虫はやはりガガイモ科のツルモウリンカなどの草を食べて、ともに毒性の強いアルカロイドを体内に蓄えている。成虫になっても体内にアルカロイドが残っているので、天敵に襲われることはまずないそうだ。今や天敵は地球温暖化と激しい気象変動ではないだろうか。2025年の夏は北海道でも35度に届きそうなほど日本列島は暑熱地獄だった。美しい蝶がその犠牲にはならないでほしい。(10月30日)

