投稿者:大矢雅弘

 家具作りの街として知られる福岡県大川市は、家具類の出荷額、企業数で日本一とされる。家具製造業者でつくる協同組合「福岡・大川家具工業会」が近年、力をいれているのが木材として使えるまでの成長が早い「早生(そうせい)広葉樹」のセンダンの普及だ。
 総合事務用品メーカーのプラス株式会社は11月末、福岡・大川家具工業会と連携して来年2月、センダンを使ったオフィス家具を発売する、と発表した。国産木材の積極活用で森林の健全化やカーボンニュートラル(脱炭素)の実現をめざすプロジェクトの第一弾だという。国内きっての家具産地である大川にとっても、センダンの存在を知ってもらう絶好の機会になる。
 センダンはセンダン科の落葉広葉樹で九州や四国など温暖で日当たりのよい地域に自生する。スギやヒノキは植えてから木材として利用できるまで40~50年を要するが、センダンは15~20年で直径30~40センチの木材を得られる。植えた本人が収穫できるうえ、材質は高級材のケヤキに似て堅く、スギやヒノキの数倍の単価で取引されていることから、林業関係者の間で強い関心を集めている。
 センダン育成の取り組みが全国に先駆けて進むのが熊本県だ。センダンは成長する過程で、幹が大きく枝分かれし、枝を四方に大きく広げて傘形の樹形になりやすいため、木材利用が難しかった。熊本県林業研究指導所(現在は県林業研究・研修センター)は、そんな弱点を克服し、真っすぐに成長させる方法を確立した。
 センダンにいち早く関心を寄せ、協力したのが熊本県天草地域の林業家らでつくる「栴檀(せんだん)の未来研究会」の福田国弘代表の父、富治さん(故人)だ。キュウリなどの果菜類で茎から生える余分な芽を摘み取る「芽かき」という作業をセンダンに応用することを思いついた。そのアイデアを実践すると真っ直ぐに育ち、良好な樹形にすることに成功し、県の指導所に提案した。園芸分野の手法をまったく畑違いの林業に使うことを思いついた富治さんの発想のやわらかさには脱帽するばかりだ。
 国弘さんが育てたセンダンは、福岡・大川家具工業会に持ち込まれた。福岡・大川家具工業会は熊本県内での研究成果や木材としての質の高さに注目し、2017年から熊本県産のセンダンを使った家具を製造している。福岡・大川家具工業会は、センダンの植樹・育成・活用により、持続可能な森林の循環を目指す活動を「センダンサイクル」と名付けて展開しており、プラスはオフィス用品分野大手として、「センダンサイクル」に参画している。
 国弘さんによると、センダンは耕作放棄地が植栽地として最も適しているといい、熊本県内では天草地域などで耕作放棄地への植林が徐々に増えている。「林業という目で見ると、センダンはイノベーション(技術革新)」と語った 国弘さんの言葉が忘れられない。低迷する林業を一朝一夕に立て直せるわけではないが、センダンが林業再生の呼び水となるよう期待が膨らむ。(12月9日)