投稿者:古賀 晄

 北九州市南区のファストフード店で塾帰りの中学生男女が殺傷された事件(2024年12月14日夜)で近くに住む43歳の男が逮捕された。被害者の中学生2人と容疑者との接点はないという。なんの落ち度もない中学生男女を無言で刺した容疑者に強い憤りを覚える。動機不明というのが不気味であり、こうした理不尽な凶行が増えている気がする。
 この事件とは比べるべくもないが、私自身も理不尽な暴力を受けて悔しい思いをした。2024年末のある日、西鉄大橋駅(福岡市南区)の1階から地下へ続く階段を下りる途中だった。呼吸器疾患に加え2度の心臓発作を起こしたばかりの81歳だ。階段右側の手すり伝いにソロリと下っていると、階段を上ってきた恰幅の良い40代くらいの男が「どかんか、ジジイ」と怒鳴って手すりと私の間に割り込んできた。幅5mほどの階段には清掃係の男性が1人いるだけで混み合っているわけではない。尻もちをつきそうになって手すりにしがみつき、「私は右側を下りています。体が悪いので手すり伝いでないと怖いのです。ほれ、ヘルプマークも付けています」と、わざと丁寧な言葉遣いで言い返した。男は「なんかあ、貴様。俺が通りよるったい」と怒鳴りながら、また私の胸あたりに左肩を強くぶつけて押し倒そうとした。
 「今のは暴行罪ですよ。すぐそこに交番があります。警察を呼びますよ」と、ポケットからスマホを取り出した。数秒間睨みつけていた男は、舌打ちをして「この死に損ないが!早よう死ね」と大声で捨て台詞を吐いて去って行った。
「死に損ないが!」と言われたのが悔しかった。指定難病の呼吸器疾患は平均余命3年と言われているから、今もこの悪態が凍った刃のように胸に突き刺さっている。

 少し冷静になって「弱い者を攻撃する心理」を調べると、メンタルヘルス団体のウエブサイトに「ニワトリの社会」というのがあった。十数羽の群れには必ずボス的なオスが頂点にいて、その下に序列2位、3位のオスがいる。群れに近づいた子どもに攻撃を仕掛けてくるのは必ず序列最下位のオスだそうだ。農村部で育った私は小学校低学年の頃、友達の家へ行くと必ずオンドリに追いかけ回された。身をもって体験したからよく理解できる。
 序列最下位のオスは上位のオスにつつかれ抑圧されているから自分より弱い立場の者を攻撃してストレスや抑圧された感情を解放しようとするのだそうだ。これは人間社会にも当てはまるとあった。人間社会では「いじめやパワハラを続ける人は次第に孤立してストレスをぶつける相手がいなくなると、ストレスが内部爆発して自分自身を破壊する」と解説している。弱い者を攻撃するのは序列の低いオンドリと同じらしい。
 北九州市の中学生殺傷事件の容疑者の心理について、犯罪心理学者の出口保行・東京未来大学教授は「社会的孤立を強く感じていたと思う。社会に大きな動揺を与えて自分に注目させること、本人にとってそれが第一義の価値観だったと思う」と述べている。
 いたいけな子どもなど弱者を攻撃する事件は日本だけでなく世界各地で起きている。この社会の何かが間違っていて孤立した人間が増えているとしたら実に恐ろしい。(1月7日)