投稿者:上原幸則
明治25年(1892)創立の母校、鹿児島市立小山田小が130周年を迎え、記念講演に東大出でNHKにも度々登場して「人と犬の研究」では第一人者の先生が見えると聞いて、11月19日、久しぶりに母校を訪ねた。
小山田小は郊外の小規模校で児童数約60人。講師の菊水健史さんは昭和57年(1982)の卒業。わんぱく坊主で、隣のクラスとの争いが絶えず、花壇の砂をつかんでは投げ込んでいた。授業で担任から問題が出ると、さっと手を挙げ指名されたのはよいが「先生、今の問題はなんでしたっけ」。6年生時には、音楽の時間に縄跳びをして、担任からビンタされた。「悪いことをするとたたかれる」。教訓となった。担任も式典に見えており、今は大先生となった教え子の講演に目を細めていた。
卒業後は、ラ・サール学園へ。6年間、20㌔ほどを2時間かけて通い、無遅刻無欠席。東大農学部獣医学科を卒業後、東大大学院助手などを経て現在、麻布大学獣医学部教授(博士)。
講演では、学者となる基となったのは小学校時代と話された。自然豊かな環境のもと、帰宅後や休みの日は、川ではアユやウグイ、山や畑ではメジロやウグイスを追いかけるのが日課。魚を捕ろうとしてそっと近づいても、鳥のワナを仕掛けても、すぐ感づかれて逃げられ、さらに仲間たちに信号を出して知らせている。魚や鳥のどこに知恵があるのか、疑問が動物行動学の学者の道につながった。
犬も子どもの頃から好きだったが、本格的に付き合いだしたのは、米タフツ大学に留学中。2匹の犬と暮らし、コミュニケーション能力の高さに気づいた。帰国後、東大から飼い犬と共に出勤を認められた麻布大(相模原市)に移った。犬は3~5万年前から人間と行動を共にしていると言われているが、あまり研究されていなかった。犬は人の指さしや視線を理解する能力があることが研究で分かり、人と犬との共進化についてさらに解明を進めている。
菊水さんによると、人と犬が見つめあうと絆を生む幸せホルモン、オキシトシンが分泌される。また、離されていた犬が飼い主と再会すると、涙を流すことが実証されている。
犬の効果について、犬を飼っている地区では犯罪発生率が低い。犬がいる家庭では、思春期の子どもの精神が安定している。犬を連れて散歩していると、貴婦人からも話しかけられる。犬が外から室内に運ぶ菌類で、アレルギー抑制がみられる。高齢者が犬を飼うと介護の必要な度合いが減る。死亡リスクは、病気よりも社会的に孤立する方が危ない。犬は困った時は、人間に眼差しを向ける。人間の価値観、生き方が犬に反映されている。犬を見ることで人間が見える面もある。これからは人はもとより動物、植物、微生物とも調和してつながる社会に向けて進む必要がある。自然がいっぱいの小山田は有望だと、締めくくられた。
小さな小学校だが子どもたちも大きな希望をもらった。菊水さん、講演ありがとう。
(11月30日)