投稿者:岸本 隆三

 甲状腺がんの治療で使う放射線医薬品が、原料の放射線物質「ヨウ素131」を製造する海外の原子炉で稼働停止が重なったため供給不足になっている。各地の大学病院などで治療延期を余儀なくされる患者がでている(5月23、24日付、読売新聞)という。新型コロナウイルスの感染拡大でマスクや消毒液が深刻な品不足に見舞われたが、幅広く中国に依存しているためだった。国内に多くの原子炉を抱えながら放射性物質「ヨウ素131」は海外に依存、全量輸入というのが驚きだ。こういうところにも医薬品のサプライチェーン(供給網)の問題があったのか。なかなか安心できないなー。
 この医薬品はカプセルになっており服用する(飲む)。甲状腺がんを摘出後、転移しているがんを破壊するために手術後3、4か月後に服用することが多いという。カプセル剤をのむと消化管から吸収された放射性物質「ヨウ素131」ががんに集まり、腫瘍の中から照射してたたく治療だ。
 私も16年前服用した。九州がんセンター(福岡市南区)で甲状腺がんと転移していた右リンパ節を摘出した。医師は手術後、手術で除去できなかったり、散ったりした可能性のある微小な腫瘍を放射線で退治するとして九州大学病院(福岡市東区)を紹介した。というのも服用すれば、体から放射線が漏れるため隔離する鉛病室が必要で当時は近辺では同病院しか設備はなかった。手術から2か月余して入院、カプセル4錠が入った鉛の重い容器を医師が鉛病室に持って来た。それをのんだ。病室を出ることはできず、4日後でも計測器を体にあてられると「ガーガー」と音がでていた。1年2か月後、再入院して同様の治療を受け、幸いにも「寛解」と言われた。私は一連の治療がうまくいったのだ(転移がなかったのかもしれない)。2年前、別のがんを患ったが、甲状腺がんとは関係ないようだ。
 供給不足で半年以上待つ患者が増えているという。がんだけでもショックなのに治療の遅れはそれに拍車をかける。自分自身が気付くのが遅れたならまだしも医薬品の供給不足とあっては、胸が痛む思いだ。
 供給不足は昨年9月、世界の供給量の6割を生産するポーランドの原子炉が稼働停止、11月には別の原子炉もトラブルで稼働できなかったためで、ポーランドの原子炉が再稼働する7月中にも供給は正常化するという。
 大丈夫かなと思ってしまう。国産はと思うが、発電用の商業炉は構造が異なるため「ヨウ素131」は回収できないという。代替治療はないといわれ、ある程度のコストをかけても国産化が必要ではないか、と思う。日本の技術とこれまでの原子力予算を考えれば、できないことはないと考えるのだが。(6月1日)