投稿者:古賀 晄

 22年間も続く地域ぐるみで子どもを育てる「なんちゅうカレッジ」という取り組みが福岡県春日市にあると聞いて、令和5度の第22期開講式(7月22日)を取材した。会場は春日市立春日南中学校。19の講座が12月まで計10回開かれるという。春日南中(なんちゅう)の在校生(約700人)が主な対象だが、自由参加型なので今期の受講生は中学生250人に加え地域の大人33人と小学生4人。大人も一緒に学ぶのが特徴だ。
 開講式の後、第1回目の授業が始まった。講座のテーマと日程は学校行事や部活動と重複しないように配慮されていて、「面白サイエンス」「電気機器工作」「自然観察」「お金の教室」、それに茶道や三味線、陶芸、演劇、ゴルフ、硬式テニスなど多彩だ。45人の講師は特技を持つ地域住民が務めている。
 籐細工講座に入った女子中学生の1人は「細いヒゴだけでいろんな形が作れる技が面白そう。果物入れを編んでお母さんにプレゼントしたい」と張り切っていた。囲碁を指導する高齢男性は「デジタルゲームしか知らない現代っ子に囲碁の味わい深さを伝えたい」と意気込んでいた。
 「なんちゅうカレッジ」は、春日南中学校創立20周年の記念事業実行委員長だった荒木貢さん(86)が「地域ぐるみで子どもを育てる取り組みを」と提案して発足した。
 荒木さんは「今の子どもは自分が住む街の文化や技、暮らしを知る機会が少ない。地域の大人と交わって社会性をはぐくむ学びの場があったらいいなと。継続できているのは地域の人々の理解と支えのお蔭です」と目を細める。
 講師は無報酬だが、教材費など費用は地元の事業所67社と自治会7区、春日市テニス協会が支援、会場設営や運営は保護者や住民が担っている。
 「カレッジでやりたいことを見つけた生徒がたくさんいる。不登校の生徒がカレッジには積極的に参加する例もあり、家と学校以外の第3の居場所の役割を担っていると思う」と、実行委員会の今別府浩一副委員長は胸を張った。
 「参加してよかったこと」を聞いた15周年記念誌には「地域の人と知り合いになった」と答えた生徒の感想が目立つ。成人の受講生や講師、運営を支える地元の大人とふれあうことで、世代間の交流が自然に育つステージになっていることを物語っている。
 発足当初は学校週休2日制の完全実施の時期で「子どもの居場所づくり」の役割が大きかった。その後、総合学習に位置づけ1、2年生の全員参加制になり学校と地域が共同運営していた。だが教職員の働き方改革で学校側の関与が大幅に縮小。その分、地域住民の役割が重くなったけれど、高齢化した実行委員会の後継者が見つからないのが悩ましい課題という。
 令和5年4月1日にこども基本法が施行された。内閣府の調査(令和4年度)によると、いじめや虐待などが原因で「居場所がない」という子ども(10歳~14歳)が2割強を占める。こども家庭庁は、学校や家に居づらい子どものための「第3の居場所」づくりの指針をまとめる予定だ。地域で子どもを育て見守るさまざまな形を想定しているが、「なんちゅうカレッジ」はそのモデルの一つと注目されている。(8月21日)