投稿者:古賀 晄

 看護師紫原ともこさん(50)は、介護職に就く外国人技能実習生への日本語指導の資格取得を目指している。専門学校で420時間のカリキュラムを修了、現在は福祉系大学の通信課程4年生に在籍している。紫原さんを突き動かしたのは医療・介護現場で直面した現実だった。
 ある思いから36歳で正看護師資格を取得、大きな病院に勤務、混合病棟や急性期外科など幅広い診療科でキャリアを積んだ。
 国際医療NGO「ジャパンハート」に志願してミャンマーで半年間、睡眠時間もない過酷な任務を果たした。健康保険制度がなく適切な医療を受けられない社会を目の当たりにしたが、「絶対的な貧困の中にあっても幸福そうな人々の温かさ、日本では見えなかった家族のあり方や地域で支え合う仕組みに心を打たれ精神的な疲労感はなかった」という。
 25か国を巡るピースボートで諸国の医療体制の違いを観てきた。一方、超高齢化の離島や過疎地での勤務では「医療の地域格差」を痛感し、24時間「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」では絶望的な人手不足に心が折れた。
  介護職不足は2025年で32万人、2040年には69万人が見込まれ、外国人に頼るしかない。厚労省は、2024年までに介護分野で外国人技能実習生6万人の受け入れを目標にしているが、現状は7,019人(2022年4月速報値)にとどまっている。2019年度、外国人介護職は5年間の在留期間が認められる特定技能実習生制度(14産業分野)になった。日本語能力試験(N1~N5の5段階)でN4(ゆっくりした日常会話や基本的な文章の読解力など)以上に合格することが必須条件。
 そこで、「介護職を希望するアジア人実習生の役に立ちたい」と紫原さんは決心した。すでにミャンマー人に「介護の日本語」を教えた実績もある。
 人材の多くはアジア諸国だが、日本語は非常に難しい言語なのだ。漢字とひらがな、カタカナと文字が3種類もある国は他にない。加えて医療・介護の専門語を習得しなければならず、毎日の介護記録は相当高い語学力が求められる。
 今の制度には医療・介護の最前線を経験した紫原さんだからこそ感じる危うさがある。
 「N4やN3(自然な日常会話と簡易な文章の理解力)程度では介護職場は難しい。言葉の行き違いは事故につながりかねないし、職員や利用者との関係をうまく築けない。医療・介護従事者間では専門用語が日常的に使われ、患者や利用者には丁寧で分かりやすい言葉遣いが求められる。寝たきりの人のおむつ替えだけを延々とさせることになりかねない」と。
 「日本語の壁」だけではなく、外国人実習生の給与・待遇の不平等をはじめ銀行口座や住居、携帯電話さえ容易に入手できない社会環境が「アジア人に選ばれない日本」になりつつある。過酷な仕事を外国人の奉仕に依存しようとする安易な意図がありはしないだろうか?
 「犠牲なき献身こそ真の奉仕」――ナイチンゲールの言葉が重たい。(8月26日)