投稿者:大矢 雅弘

 糖尿病が国民病といわれて久しい。糖尿病は、血糖値が高い状態が続くことで、さまざまな合併症を引き起こす病気だ。元九州大学大学院医学研究院准教授の長山淳哉さん(73)=公衆衛生学・予防医学=が、高血糖や糖尿病の内実を、自身の実践と医学的解説を交えて明らかにする「高血糖は万病の元」を出版した。
 長山さんは1974年、国内最大の食品公害事件であるカネミ油症事件で、油症の原因となった米ぬか油からダイオキシン類の一種を検出し、カネミ油症の真の原因物質を突き止めたことで知られる。
 定年退職後の2016年5月、福岡での生活に区切りをつけ、高知市に帰郷。2018年3月の特定健康診断で、HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)値が7・0%だった。HbA1c値は、糖尿病である可能性があるかどうかを判別する数値で、6・5%以上の人は「糖尿病が強く疑われる」という。
 厚生労働省の2016年国民健康・栄養調査によると、糖尿病患者とその予備軍を合わせた総数は推定2千万人。わが国では20歳以上の国民の24・2%で、4人に1人弱に相当する。
 九州大学在職中からウオーキングなどに親しんでいた長山さんは帰郷後も運動の習慣を続けた。その後、「糖尿病の最大の原因は高血糖だから、糖質の摂取量を知る必要がある」として、簡易の血糖値測定器を購入。食前・食後、空腹時の血糖値の測定を重ねる中で、糖尿病の最大の原因が糖質の摂取過剰だと気がついた。
 長山さんは、精度の高い生活習慣病の疫学研究として知られる、九州大学第二内科による「久山町研究」を引き合いに出し、「日本糖尿病学会が推奨する糖尿病の食事療法、つまりカロリー制限をした高糖質食(糖質60%、脂質20%、たんぱく質20%)では糖尿病は治療できないだけでなく、むしろ悪化する」と手厳しく批判する。
 同研究によると、1988~2002年にかけて40歳~79歳の久山町住民を対象にした糖尿病の有病率調査は、食事指導と運動療法による糖尿病発症の予防が目的だった。この時に採用されたのが日本糖尿病学会推奨の食事療法だった。結果は、糖尿病の確定診断のついた人が男性で15・0%から23・6%に増え、女性も9・9%から13・4%に上昇。予備軍まで含めると、男性の約6割と女性の4割以上になった。
 長山さんは、自身の血糖値測定の結果からも、久山町研究の結果を支持する。さらに、厚労省が定めたエネルギー摂取基準の問題点にも言及。例えば、普通の生活をしている65~74歳の男性の推定エネルギー必要量は2400キロカロリー。「これほどのエネルギーを摂取すれば、生活習慣病の予防どころか、肥満により、逆に生活習慣病まみれになってしまう」。極めて過剰な摂取基準だとして、「国民の肥満問題は厚労省によって作り出されていると言える。したがって、糖尿病もまた、その原因の根本は厚労省にある」と結論づけている。
 同書では、日常の食生活を通じて、あまり無理をしないで予防する実践的な助言も紹介している。高齢期に健康で質の高い生活を過ごすためにも、一読をすすめたい。出版元は緑風出版(東京)で1800円(税別)。(9月14日)