投稿者:大矢 雅弘
「和食」がユネスコ(国連教育・科学・文化機関)の無形文化遺産として登録されて今年で丸10年になる。日本の食文化のすばらしさを印象づける出来事だった。
ただ、現実の暮らしの中では、お手軽なインスタント食品やコンビニ食品が広まり、家庭の主婦が家で食事を作ることが減って、できあいのものが食卓に並ぶ。家族だんらんの時間は減り、孤食化が進んでいる現象なども指摘され、日本の伝統的な和食の文化が見失われてしまいかねない懸念材料としてあげられている。
そのせいもあってか、さきごろ観たドキュメンタリー映画「いただきます みそをつくるこどもたち」(2016年)には、伝統的な和食の文化のすばらしさを改めて再認識させられた。
映画は、みそ汁や納豆、玄米、地元の無農薬野菜を中心とした和食給食を提供してきた福岡市早良区の高取保育園が舞台。独自の食育を展開する同園の取り組みに1年がかりで密着した作品だ。
「100回かんで、いただきます!」。園児たちの元気な声が響き、園児たちはもくもくとごはんを食べる。みそ汁はいりこだしが基本。卵や牛乳、砂糖は使わず、肉の代わりに小魚や大豆を取り入れ、納豆は毎日欠かさない。そんな伝統的な和食をおいしそうに頬張る園児たちの姿がスクリーンに映し出される。200人を超す園児の給食で使うみそは年長組の5歳児が毎月約100キロずつ仕込み、10カ月かけて発酵、熟成させ手作りする様子も紹介される。
1968年の開園から2016年まで48年間、園長を務めたのは西福江さん。西さんの著書「子どもが育つ玄米和食~高取保育園のいのちの食育」を読むと、食べ物によって体調を整え、病気になりにくい体質にしていく古来の「食養生」や「医食同源」の考え方を、和食給食として実践してきたことがわかる。
西さんは1980年代、アトピーやアレルギー性皮膚炎の子どもが目立つようになったことをきっかけに、栄養士や医師を交えて勉強を重ねた。その結果、たどり着いたのが、玄米と野菜、みそなどを活かした和食の給食だ。この取り組みによって、アトピーやアレルギーの園児の症状は改善した。現代っこは和食が苦手だと思われているようだが、園児たちに好き嫌いはなく、食べ残しもなく、毎日完食だという。
西さんは、現代の食を「昭和30年代の食に戻す」ことを目標に掲げた。なぜ30年代なのかといえば、昭和30年代ごろを境に、日本人の食生活は栄養的によくない方向へ偏ってきているとみているからだという。言い換えれば、和食に親しむ機会が減り、食生活の欧米化が進んだということなのだろう。
朝日新聞6月30日付朝刊の1面トップで「食物アレルギー 児童生徒52万人」と報じられた。食物アレルギーがある児童生徒が全国の公立小中学校に約52万7千人いることが、昨年度、9年ぶりに実施された大規模調査で判明。2013年の前回調査より約12万人増えたという。
振り返ってみれば、私たちが子どものころは、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患はほとんどなかった。食生活だけが原因ではないだろうが、素人感覚でみても、食生活の変化が大きいと言わざるを得ない。
食べ物を自分で選ぶ力を育てる「食育」を保育に取り入れている保育現場は、日本国内でどれほど広がってきているだろうか。スクリーンにあふれる園児たちの生き生きとした姿を見て、高取保育園のような食育が大きなうねりになって広がっていくことへの期待が膨らんだ。(7月3日)