投稿者:上原 幸則

 熊本日日新聞が5月24日付一面で、家庭教師トライの運営会社がオンライン提供の映像学習サービスで「水俣病は遺伝する」と誤った内容の動画と文章を配信していたと報じた。水俣病はチッソ水俣工場の排水に含まれたメチル水銀が原因の脳神経疾患。胎盤を通じてメチル水銀を取り込んだ胎児性患者はいるが、遺伝はない。
 該当部分は削除されたが、その後の各紙報道によると、誤情報は長年発信されており、熊本知事が正しい情報発信、水俣市長は誤情報を学んだ子どもたちへの対応、環境相は経緯説明を求めている。運営会社は6月6日、問題の経緯と再発防止策を公表した。動画撮影で講師の誤った発言をチェック段階で見落としていたという。
 水俣病関連で子ども向けの漫画『医師原田正純物語』がある。水俣病研究の第一人者で被害者の診療・救済に尽くした原田正純さん(1934~2012年)の功績や生き方を子どもたちに伝えるため、出身地の鹿児島県さつま町(旧宮之城町)が2024年3月、漫画3000冊をつくり、学校などに贈った。
 さつま町は鹿児島市から北へ約35キロ。原田さんは戦時中、熊本市からさつま町に移り、宮之城中からラサール高校に進み、熊大医学部を1959年に卒業。1961年、水俣病の発生地域を訪れて研究を始め、「胎盤は毒物を通さない」という当時の定説を覆し、母親の胎内で有機水銀中毒になる胎児性水俣病を確認、1962年熊本医学会で立証した。
 漫画の個人購入は無理とのことで、さつま町役場を訪ね、閲覧用を読ませてもらった。戦争で母親が死ぬ理不尽さや移住先のさつま町の人たち、地区に伝わる行事、自然に癒やされたこと、水俣病患者宅を一軒一軒訪ねて信頼関係を築き、「水俣病を診た」という責任感から研究を重ね、胎児性水俣病の認定にたどり着いたこと。患者の声を第一に聴き、生活環境を含めて診ることの大事さが描かれている。
 106ページを読み終えると、水俣病患者への思い、緑豊かなふるさとへの思い、人間と自然への思い、環境汚染が進む未来への危惧が伝わってくる。漫画を読んだ子どもたちは、水俣病への理解を深めていくだろう。
 宇城市が今年2月、全世帯に配布したカレンダーに「水俣病は感染症」と誤った表記があった。5月29日に職員研修の一環として、市長と職員約30人が水俣病資料館を訪れ、水俣病の歴史について話を聴き、学び直し正しく伝えていくことを確認したという。
 水俣病の公式確認から69年。患者認定や賠償を求める訴訟が続き、国会は救済対象拡大を目指す新法案の提出へ動いている。原田さんが亡くなって6月11日で13年になった。水俣病を風化させず、偏見や無理解を無くしていくため「伝える」意義は大きい。(6月17日)