投稿者:大矢 雅弘
病院などの受診時に、マイナンバーカードと一体化したマイナ保険証が8月から本格化した。今までは、有効期限切れの健康保険証を使うことが認められていた。しかし、8月1日以降は期限切れの保険証では、保険証を忘れた時と同様の扱いになり、窓口ではいったん10割負担する可能性がある。受診時にはマイナ保険証か資格確認書の提示が必要となった。
7月26日に愛知県の医師がX(旧ツイッター)に投稿していた。
〈政府はマイナンバーカードの義務化を言い出したが、今国会では断念させた。私のクリニックでも、顔認証ができなかったり、名前の漢字が表示されず本人確認ができなかったり、いまだにトラブルが絶えない。前の保険証を復活させて選べるようにしてほしい。〉
私はマイナ保険証を作っていないため、資格確認書が送られてきた。資格確認書は、従来の健康保険証とちっとも変わらない形状である。国民の全員が持っている保険証をわざわざ廃止して、マイナ保険証を全員に持たせるという国のやり方に強い違和感を覚えずにはいられない。
マイナカードの交付が始まったのは2016年1月だ。当初は個人情報流出への懸念などからマイナカードの普及は進まなかった。ところが、今年6月末時点における全国のマイナカードの保有枚数は約1億385万枚であり、人口に対する保有率は83・4%となった。マイナカードがこれほどまでに普及した最大の理由は言わずもがな、最高で2万円分のポイントがもらえる「マイナポイント事業」だろう。
さらに、政府はマイナポイント事業にからめて、国民のだれもが加入している健康保険制度にも目をつけた。健康保険証を廃止して、マイナ保険証を押しつけることでマイナカードを一気に普及させようと政府は画策したのだろう。
会計検査院が調べたところ、2019~23年度に実施されたマイナポイント事業により、マイナカードの申請件数は、事業の前後で6769万件増え、マイナ保険証の登録は6170万件増えた。
ただ、マイナポイント事業でこれだけの成果を得るために支出した額が2019~23年度で計1兆3905億円というとんでもない額であることも判明した。おまけにメディアに対する広報に要した経費は211億円にのぼる。広報について、会計検査院は「媒体の種類、媒体別投下量等の検討・決定の経緯が分かる資料が保存されておらず、妥当性を確認できない状況」と指摘した。ずいぶんとお粗末な仕事ぶりと言わざるを得ない。
マイナカードの保有率は総務省発表の数値で、7月末の時点で84・0%。マイナ保険証の利用状況は厚生労働省の数値で、5月の利用率が68・52%となっている。
マイナ保険証の利用は拡大したとはいえ、医療現場ではトラブルが絶えない。全国の医師らで構成する全国保険医団体連合会(保団連)が昨年10~11月に実施し、今年1月末に公表した調査によると、1万519医療機関のうち約7割でトラブルがあった。中身は「マイナカードの有効期限切れ」(3319件)や「読み取り機の接続不良や認識エラー」(3541件)、「名前や住所の不一致」(1695件)など。保険資格が確認できず、患者側に医療費を「いったん10割請求」したケースも3686件あった。
医療現場でトラブルが相次ぐ中、当初定められたルールは次々と変更された。たとえば、マイナ保険証の所持者には資格確認書が交付されないが、後期高齢者に対しては、切り替えに伴う混乱を避けるため、マイナ保険証の有無にかかわらず、一律に交付される措置がとられた。従来のすべての健康保険証の新規発行は2024年12月2日に廃止され、既存の保険証の有効期限は2025年12月1日までとされていた。しかし、特例措置として、期限切れに気づかず医療機関や薬局に持参した場合でも今年3月末まで利用可能としていた。その後も期限切れの保険証で受診する人が一定数いることを踏まえ、措置を7月末まで延長することにした。こうした政府のやり方は場当たり的な対応というほかない。
気がかりなのはマイナカードの有効期限は10年、電子証明書の有効期限は5年だということだ。更新のために自治体の窓口に行かないと、マイナ保険証は使えなくなる。このことを知らない人は少なくないはずだ。それは、保団連の調査で、医療費を全額自己負担しなければならないケースが多数発生していることからも明らかだ。マイナ保険証を持つ人の多くは、国がマイナポイント事業でポイントを付与した2020年9月から23年9月末に取得している。一斉に更新時期を迎える人たちが増えることで、自治体や医療機関の窓口業務に大きな負担がかかり、半端ない混雑や混乱が生じる懸念が強まっているのは否定できない。医療機関の関係者などから怨嗟の声が高まるのではないか。
「国民を苦しめ地域医療に大混乱をもたらすマイナ保険証」と題するシンポジウムが、今月29日午後1時から東京都内の明治大学駿河台キャンパスなどで開かれる。地方自治と地域医療を守る会主催。Zoomでも参加できる。(8月19日)
