投稿者:古賀 晄
「もう施設を閉鎖しようかしら」。
福岡県北部で地域密着型の小規模通所介護施設(デイサービス・定員18人以下に分類)の管理者である友人女性(40歳代)は疲れ果てている。
「陽だまりのような居心地の良さと手作りのランチが楽しみ」と利用者の評判は上々なのだが、この施設も人手不足に直面しているのだ。
利用者は1日平均14、15人。対して常勤スタッフは看護師を含め3人、パート4人、送迎車運転手と調理員各1人。ほかに友人は調理を毎日担当、夫である社長は送迎手伝いと事務を務める。設置基準の職員数を満たしているが、スタッフのほとんどは60~70歳代なので入浴介助などは体力的に限界があり、自分の通院などで月に2、3日の有給休暇を取得する。
「労働基準法通りにスタッフの休暇や昼休みを確保するため、管理者の自分は昼休みも休日もないうえ、役所に提出する介護記録など膨大な書類作成が連日深夜まで続く」とため息をつく。
筆者自身がいつかは同様施設でお世話になる身だ。他人事ではない。調べてみて「介護業界の人手不足は想像以上に深刻」とわかった。
デイサービス施設は全国で2万5756施設(福岡県は1297施設と全国3位。厚労省2020年12月末時点)。福祉医療機構によると、地域密着型の小規模事業所は41.8%が経常赤字といい、2015年をピークに施設数が減り続けている。さらにコロナ禍に伴う利用控えや感染防止対策費増が経営圧迫に追い打ちをかけている。
デイサービスはコストの約70%が人件費とされるが、「特定処遇改善加算」の新設(2019年10月)でベテラン介護職員は月額平均8万円増とし、介護職の就労意欲を上げ人手不足解消を狙った。職員の待遇改善には貢献した一方で人件費の高騰を招いたものの人手不足のが続いている。現場は人手不足→スタッフの負担増→耐えかねて退職→人手不足という「負のスパイラル」に加え、スタッフの高齢化や経営者の過重労働、人間関係の悪化という問題もあらわになってきた。
厚生労働省は2025年に65歳以上の高齢者が全人口の30%、介護職は32万人不足し、2040年は35.3%に達して介護職不足は69万人と予測する。国は介護保険など社会保障費抑制の改革案に介護サービスの経営統合や再編を明記し、大規模化で経営効率化を図ろうとしている。
この方針だと経営効率の悪い小規模施設とその利用者は切り捨てられる。
地域密着型小規模施設は高齢者が住み慣れた街で医療、介護、福祉など日常生活の支援が受けられる地域包括システムの一翼を担っているはずだ。介護保険財政のひっ迫によるあおりを食うのは筋違いではないだろうか?
くだんのデイサービスでは、けがで長期離脱していたスタッフが復帰できそうなのと、キャパオーバーで退職した若手のホープが「やっぱり介護の仕事が好きだから」と戻って来たという。
「まだまだ根本的な解決には遠いけれど、一筋の希望が見えてきた。利用者さんのためにも頑張ってみようかな」と声がいくぶん明るくなった。(6月16日)