投稿者: 上原 幸則

 8月は太平洋戦争の終戦の月で、テレビでも戦争にまつわるドラマやドキュメンタリーが目立った。鹿児島県曽於市の住民グループは地元にあった岩川基地を拠点に特攻は行わず終戦まで通常戦法を貫いた旧海軍の航空部隊・芙蓉部隊のドキュメンタリードラマをつくりあげた。
 芙蓉部隊は1945年(昭和20年)1月、静岡県藤枝基地で編成された夜間戦闘を主とした部隊で、基地から見える富士山の別名、芙蓉峰にちなんだ。指揮官の隊長は美濃部正少佐(当時29歳)。艦上爆撃機・彗星や零戦を擁していた。米軍の沖縄侵攻で鹿児島県の鹿屋、さらに岩川へと移ってきた。美濃部少佐は、沖縄戦に備えての作戦会議で練習機まで繰り出す特攻方針に反対した。芙蓉部隊の練度の高さを見た上層部が折れ、飛行隊は夜間に出撃しては米軍の警戒をかいくぐり、基地や艦船を攻撃して引き返し、特攻はなかった。
 ドラマづくりの中心は、地元で社会福祉に携わっている持田初穂さん(78)。20年ほど前から参列している慰霊祭で、元隊員から「自分たちのことを忘れないで」と言われたことが心に残り、証言を記録してきた。映画「サクラ花-桜花最後の特攻-」を戦後70年企画で制作した松村克弥監督から、芙蓉部隊について3年前に提案があり、「芙蓉部隊の記録を作る会」を7人で立ち上げた。資金集めには苦労したが、地元のNPO法人、企業、若者たちの協力で目標額に達した。
 ドキュメンタリードラマ「芙蓉部隊」(76分)の初上映会は、8月11日、曽於市の大隅文化会館であった。約700人が集まり女性や子どもが多いのに驚いた。作品は俳優・榎木孝明さんがナビゲーターとなり、基地跡や地下発電所を回り、ゆかりのあった人たちにインタビューする場面と俳優が美濃部少佐らを演じる再現ドラマから成り立っている。
 再現ドラマのクライマックスは、作戦会議で総特攻を迫る参謀から「獅子身中の虫」と罵倒されるなか、美濃部少佐が「創意工夫、科学的思考、徹底した訓練で最後まで戦う」ことを訴えるシーン。米軍機の偵察をごまかすため、昼間は滑走路に草を敷き牛が放されている様子も再現されている。美濃部少佐の長女は「父は隊員たちと年齢も近く、死なせることが出来なかったのでは」と語っている。
 2023年3月の福岡ペン倶楽部の講演で、佐藤直樹九州工業大学名誉教授は「日本では世間の空気を読み、悪目立ちをしたくない、という思いが支配的だ」と話された。空気が醸成されつつある時、異を唱えることは如何に困難か組織にいた者として分かる。ましてや上意下達の軍隊組織で、空気に抗い隊員を守った指揮官。ドラマから美濃部少佐の思いと持田さんらの「地元の歴史を伝え、平和の尊さを次の世代に」の思いが伝わってきた。慰霊祭に参加していた元隊員の姿も見なくなった。戦争を語れる人が減るなか、ドラマで残していくことはとても意義があると思った。(9月3日)