投稿者:古賀 晄

 3年余のコロナ禍ですっかり出不精になってしまった。福岡市南区のちょっと田舎に住んで5年、久々に会合に出席するために出て来た都心は、天神ビックバンと銘打った大規模な再開発が進行中だ。何十年も見慣れた都心の変貌ぶりに呆然としつつ、建設中の巨大ビルを見上げながら歩いていると、わずかな段差につまずいて激しく転倒してしまった。昔、少しだけかじった柔道の受け身がとっさに生きて身体は一回転、右肩を少し打っただけですんだ。だが、80歳の後期高齢者は動作が鈍い。人の群れの中で尻もちをついたまま、なかなか起き上がれない。
 その時、左手首のスマートウオッチが「ピピピーッ、ピピピーッ」と、けたたましい警報音を発し始めた。行き交う人々は怪訝な目をむけて通り過ぎていく。一瞬、何が起きたのかわからなかった。
 後で知ったのだが、スマートウオッチの転倒検知機能が作動して、緊急通報までのカウントダウンが始まったのだ。1分後に119番へ自動的に緊急通報、同時にGPS(位置情報システム)で現在地を知らせる仕組みだという。
 「救急車が駆けつけることになる。そんな大ごとではない。早く止めなければ!」
 歩道に座り込んだまま、カウントダウンを止めようとするが、どこをどうすればいいのかわからない。転倒検知機能が搭載されていることすら記憶になかった。その時、20歳代の男性が駆け寄って助け起こしてくれた。ケガはないが緊急通報の止め方がわからないと話すと、すぐに状況を理解してキャンセルボタンを押してくれた。お蔭で冷や汗を流しただけで事なきを得た。
 実は1年前にも雨の日に足を滑らせて転倒した。この時は受け身のお蔭できれいに着地できたものの、傘を手放さなかったため肘がわき腹に食い込み肋骨2本を亀裂骨折した。脳梗塞で倒れた前歴もあるので、「緊急SOSができるそうよ」と妻がこのスマートウオッチをプレゼントしてくれたのだった。
 スマホと連動して通話やメールの送受信、運動記録や音楽の再生など一部の機能は利用していたものの、AI(人工知能)による緊急SOSだけでなく転倒検知や車両衝突事故検出機能まで、小さな腕時計に詰まっているとは想像もしなかった。高齢者だけでなく、危険な工事現場で働く人たちにも重宝されているそうだ。
 「老いたりといえどもIT音痴にあらず」と自負していた。デスクトップパソコンにタブレット、スマホを駆使して記事作成や紙面編集に加えてオンライン取材やZOOM会議もこなしている。にもかかわらず、スマートウオッチに関しては初期設定が面倒くさいと販売店スタッフにまかせっきりにしていたのが失敗だった。これでは優れた機能の万分の一も使いこなしておらず宝の持ち腐れだ。「ただの新しもの好き」のそしりも甘んじて受けずばなるまい。
 それにしてもAI技術の凄まじい進化には驚嘆するばかりだ。いや待てよ。いつか人類がAIに支配されかねない世の中になるかも?(12月28日)