投稿者:大矢 雅弘
日本外国特派員協会(東京)が、すぐれた報道をたたえる2025年「報道の自由賞・日本賞」に「しんぶん赤旗」を選んだ。このニュースをどのくらいの人がご存じだろうか。私は動画投稿サイト「You Tube」で知った。新聞記事データベースで調べたところ、当の「しんぶん赤旗」でしか、報じられていなかった。
「しんぶん赤旗」によると、「報道の自由賞」の表彰規定は「日本およびアジア太平洋地域における報道の自由を高揚することを目的」とし、「毎年、その目的に顕著な貢献をなしたジャーナリスト個人または報道機関を表彰する」ものだという。
授賞理由は、「『しんぶん赤旗』は自民党の不正な政治資金スキャンダル、特に党内派閥内でのキックバックの摘発できわめて重要な役割を果たした」「最大のスクープは、選挙期間中に自民党本部がスキャンダルを起こした無所属候補に2000万円を流していたことを明らかにしたことだ」と紹介している。
「しんぶん赤旗」と言えば、一昨年秋、福岡ペン倶楽部主催の特別講演会で話してくださった「しんぶん赤旗日曜版」編集長の山本豊彦さんの講演を思い起こす。政治の取材現場での逸話も数多く盛り込んだ話が興味深かった。講演の時点では、2019年に安倍晋三首相の「桜の見る会」報道を手がけ、2020年に日本ジャーナリスト会議(JCJ)のJCJ大賞を受賞した経緯も紹介された。その後も、赤旗の取材班は自民党の政治資金問題を詳しく追及し続け、2024年には2度目のJCJ大賞を受賞している。
日本外国特派員協会は1945年、太平洋戦争の終戦に伴い日本に着任した、新聞社や通信社、ラジオ局に勤務する特派員や写真家、個人のジャーナリストらが設立した。2023年時点で約1500人が加盟している。政治家や経済人、音楽家、作家など連日のようにさまざまな記者会見が開かれてきた。なかでも歴史的な会見として位置づけられているのが、1974年10月22日に田中角栄首相(当時)を招いて行われた記者会見だ。
会見の12日前に発売された月刊誌「文藝春秋」でジャーナリストの立花隆さんが「田中角栄研究―その金脈と人脈」を発表していた。田中首相は会見で厳しい質問が相次いだことから、途中で会見を打ち切ってしまった。その模様が国内外のメディアに流された結果、それまで田中首相の金脈問題に沈黙していた日本の新聞や週刊誌、テレビもこぞって金脈問題を報じることになった。田中首相は、その年の11月26日に退陣を表明した。
立花さんは著書「田中角栄研究 全記録(上)」で当時を振り返り、「『田中角栄研究』ののった『文藝春秋』十一月号が市場に出たのは、十月十日。その反響は当初、めだたないものだったが、『ニューズ・ウィーク』『ワシントン・ポスト』が取り上げ、次いで十月二十二日に外人記者クラブでの首相記者会見でこの問題が取り上げられ、それが各紙のトップ記事となるに及んで、完全に一つの政治問題と化してしまった」と記している。
国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)の「報道自由度ランキング」で、日本は2010年の11位から毎年のように順位を下げている。今年は180カ国・地域中66位で昨年から四つ順位を上げたが、先進7カ国(G7)の中では17年から最下位が続いている。日本については、いわゆる記者クラブ制度がやり玉に挙げられ、フリーの記者らが政府の会見へのアクセスを制限されていると問題視されているようだ。
今回の「報道の自由賞」の授賞理由は、冒頭に書いた通り、「最大のスクープは、選挙期間中に自民党本部がスキャンダルを起こした無所属候補に2000万円を流していたことを明らかにしたことだ」。この点について、法政大学教授の上西充子教授は朝日新聞(デジタル版)で、「しんぶん赤旗」がこのスクープの4日前の10月19日に「自民 組織的犯罪反省なし 非公認8候補 党支部代表のまま」という記事を掲載していることを指摘。「しんぶん赤旗のスクープは、しんぶん赤旗にとっては追加取材でつかんだ事実を報じたいわば『続報』であって、『続報』が出る前に19日の記事をもとに他紙が後追い取材をして追い抜くことは、やろうと思えば可能だったのではないでしょうか」と指摘している。
約半世紀前の田中金脈問題では、日本の新聞は「そんなの誰でも知っているよ」とばかりにしばらく書かず、外国メディアが報じてから社会問題化した。今回の「しんぶん赤旗」の報道をメディア各社が後追いし、そうした報道の積み重ねの結果として、昨年の衆院選は15年ぶりの自公過半数割れとなった。二つの大きな出来事が私にはなにやらダブって見えてしまう。報道・メディアは権力が暴走しないよう監視するウォッチドッグ(番犬)でなければならない、と改めて思う。(6月25日)